不確定性原理の解釈

本を読んであれこれ考えてみよう

Uncertainty principle

不確定性原理の解釈
 物理学の不確定性原理というのは、極微の世界を観測しようとすると、観測手段そのものが観測対象に影響を与えてしまうという事だと思っていた。ところが以下の本では「それは間違った解釈だよ」という。そうだったのか?

グッドラック 戦闘妖精・雪風

神林長平

早川書房
ISBN:4152082232
p333

…しかし、ジャムがどこに存在するのか確定できないというのは、まるで量子論だな。ジャムは量子的な存在なのかな」
「不確定性原理というやつね」とフォス大尉。「人間の観測手段そのものが物の位置情報をあいまいにするので、同時に二つの量は測定できない、ということなんでしょう?」
「それは間違った解釈だよ」とピボット大尉という情報分析担当の男が言った。「同時に観測できない量というのは、その属性が互いに共役関係にある場合のことだ。たとえば位置とエネルギーは共役の属性を持たないので、いくらでも精密に同時に知ることが可能だ。これが位置と速度という互いに共役な属性を含む量となると同時には観測できないが——」
「どうして」
「一言では説明できない。量子論における数学的な記述内容をわれわれの常識的な感覚でたとえるのは難しい。数式自体は頑張ればだれにでも理解できるが、問題になるのは、その解釈だよ。なかには数式などそっちのけで適当に解釈する者も出てくる。きみの誤解もそこから派生したものだろう。

 Wikipediaの不確定性原理の項を読んでみると、自分が知っているのはハイゼンベルクが行った思考実験の事であって、それと量子論の性質そのものから導かれる証明とは区別して考えなければならないらしい。不確定性原理の解釈には多数の解釈があって、どの解釈が正しいのかはまだわからないそうだ。
 さて、物理学の不確定性原理はこのようによくわからないものだが、観測者が観測対象に影響を与えるという意味では社会科学でも似たような現象がある。こちらは物理学と違って非常にわかりやすい。

プログラミングの心理学

ジェラルド・M・ワインバーグ

技術評論社
ISBN:4774100773
p 53

 観察についての第三の問題点は、観察者が観察される対象と干渉してしまうという問題———一種の不確定性原理———である。ここでは社会科学の成果から学べることがたくさんある。
 社会科学は古くからこの問題に関わっており、その成果の一つとして「ホーソン効果」(Hawthorne Effect)と呼ばれる現象が知られている。この名称は、ウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場に因んでいる。そこで一九二四年から一九二七年にかけてなされた産業心理学上の実験が、失敗に終わった。なぜ失敗したかというと、労働環境をどのように変えても、つねに生産性が向上してしまったからである。とうとう実験者たちは、注目の的になっているその実験の被験者になることに対して工員たちが感じた誇りこそ、見落としていた要因だったのだ、ということに気づいた。観察された現象を引き起こしていたのは、観察するという行為そのものだったのである。

 最後は不確定性原理をネタにしたSFを紹介して終わりにする。

死んだ恋人からの手紙 SFマガジンセレクション1989

中井紀夫

早川書房
ISBN:4150303266
p 202

 そういえば、この手紙も、いったいどういう順番で、あくび金魚姫、きみのところへ届いていることやら。亜空間通信というのは、おそろしくあてにならないものだからね。でたらめな順番で届いているんだろうな。
 この宇宙の背後にある混沌とした高次の世界へ、情報をいったん送り込んで、必要な場所でそれをふたたび取り出すというやり方で、光の速度を越えるのが、亜空間通信や亜空間航法のやり方なんだけど、情報がこの宇宙に再出現するときに、時間と場所が不確定になるらしい。
 時間を特定しようとすれば、場所が不確定になって、現れる可能性のある場所が非常に広い範囲にわたってしまうし、逆に場所を特定しようとすれば、過去から未来にわたる長い時間の流れのなかのどの時点に現れるかわからなくなってしまう。そこでその両方の不確定さのバランスをとって、適当なところで妥協して、亜空間を利用しているんだけど、時間にすれば何年か何十年か、空間にすれば何光年かぐらいはすぐにずれてしまうわけだ。